2011年10月19日水曜日

増刷御礼と本書の価格設定について

猪飼周平『病院の世紀の理論』有斐閣(2010)の増刷が決まりました。
多くの方々にお読み頂いたこと、心より感謝申し上げます。

本書の値段は、4200円(税込み)です。読者の方々には、ご負担をおかけする価格となっていることについて、申し訳ない思いでおります。そこでこの際、この価格がどのような意味をもつ価格であるかについて、筆者にとってどのような言い訳が可能かを考える上でも、少し考えてみたいと思います。

拙著は、なぜかアマゾンの分類では「医学入門」ということになっています。そこで、試みに、医学入門のトップ50の価格を見ますと、平均が1861.1円(2011年10月19日17:00現在)となっており、本書の価格設定4200円はいかにも高いと言わざるを得ません(うち、本書の価格を上回っているのは『医療六法』など3冊です )。

他方で、本書の値段を研究者の仲間内で話しますと、ほぼ一様に「安い」と言われます。これも試しに、学術出版中心の東京大学出版会の「社会科学」を見て下さい。教科書的なもの、学者が一般向けに書いているもの(編著が多い)を除くと、いずれも5000円を超えてくるのがごくあたりまえで、本書が純然たる研究書であることを前提とすると、本書の価格設定は安い方に入るといえると思います。5000円を超えるという価格が何を意味しているかというと、売ることが前提ではないということです。そもそも、学術書では出版社は利益がほとんど出ないので、出版に際して、通常研究者は出版助成という大体100万円規模の助成金を当てなければなりません(申請すればかなりあたりますが)。これを出版社に支払うことで、とにかく公に刊行するという、最低限の状況を作ることができるというのが、学術出版の現状なのです。本書の場合も、武山基金という一橋大学内の出版助成(100万円)を得ています。ただ、本書の場合、学際的に読者が存在する可能性があるという、出版社の判断があって、安めに設定されたという経緯があるようです(価格設定についての出版社内的議論については私は承知していません)。

東京大学出版会ー社会科学
http://www.utp.or.jp/bd/category/200/

さらに、本書を医学書と比較しますと、また別の様相が見えてきます。例えば医学出版大手の南山堂の新刊案内をみると、本の価格が一桁違います。1万、2万という価格の本が普通に存在していています。私も学生時代、資料としてこの種の本を購入しなければならなかったとき、本当に苦労した思い出があります。これに対し、同じ医療関係でも、看護職向け、その他コメディカル向けの書籍になりますと、ずっと普通の値段になります。2000円台が多いでしょうか。このような価格差別があるのかについては、経済学を勉強したことがある人であれば、需要曲線の違い(医師の方が高くても買う)によって説明される部分が大きいということが分かると思います。

南山堂ー新刊案内
http://www.nanzando.com/books/

結局のところ、4200円という価格設定には、読者によって非常に異なる意味を持っていることになります。

一般読者   高い
社会科学者  安い
医師     安い
コメディカル ちょっと高い

これを総覧していえば、本書の価格設定に問題があるとすれば、一般読者向けとして特に不適切な価格設定となっているという点であるということになります(安すぎることの問題は読者には帰属しない)。実際、本書は一般読者にはほとんど浸透していないと思います。とはいえ、そもそも内容が読みにくいので、仮に価格を1500円に設定したところで、別の意味で不適切ということになります。学術的内容と低価格の組み合わせで勝負できるのは、本をもっているだけで頭が良くなったような気にさせるような著者、たとえば宮台さんのような方々に限られるでしょう。

結局のところ、医療関係者向け、研究者向けとしては心を痛める必要性は比較的小さく、看護関係者などコメディカルでお読み頂いた方に、軽く謝るべきということになりましょうか。むしろ主たる問題は一般向けのところにあって、もし町中で本書を持ち歩いている方に出会ったら(これまで一度も経験がありませんが)、手を握って謝意を伝えることが必要かと思います。

現在の出版業界の状況を前提とすれば、私がなすべきは、わかりやすく書き直したものを低価格で刊行すること、たとえば新書を書くことが必要ということになるでしょう。現在私は休筆中ですが、休筆期間が明けた段階で、この点については真剣に検討してみようと思います。ただ、電子出版の普及を含めて、数年後には状況が大きく変化している可能性もあるかとは思いますが。

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