2015年5月28日木曜日

地域包括ケアクイズ

ここ1,2年の間に地域包括ケアに関する知識・情報発信のあり方は、大きく変化してきているように思います。その最大の理由は、このテーマに正面から取り組む実践家たちが多く現れたことにあるでしょう。私が学術的な研究から引き出した政策的な主張についても、彼らはそれを踏まえた上で自らの実践の中で、より具体的な知識に消化しようとしているように感じています。その意味では、象牙の塔の住人がしてきた抽象的な議論は、そろそろ実践の渦の中に消えゆく時期に来ているように思います。

このような思いの中で、ここしばらく、地域包括ケアについてどのようなけじめとなる議論ができるだろうか、と考えておりましたが、ふとクイズを残すということを思いつきました。地域包括ケアに関わる方々に、私が前提として頂ければと考えてきた内容をクイズ形式で示しておくことで、チェックリスト的に使えると思います。よろしければ、以下の20問にチャレンジしてみてください。ただし、いずれも正解は、私の認識する正解だということですので、この点は誤解なきよう。

なお、解答は示しませんが、正解の選択肢には著しい規則性があります。なお、クイズの作成にあたっては、東埼玉病院の中野智紀さんに相談させて頂きました。ご協力に感謝いたします。

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【地域包括ケアクイズ】
Q1 ヘルスケアの目的について、次のうち正しいものを選んで下さい。
    病人を死の淵から救い出すこと。
    寿命を延ばしたり、健康寿命を延ばしたりすること。
    病人を含む当事者の生活的価値を実現(QOLを増進)すること。

Q2 地域ケアの根拠として相応しいものを選んで下さい。
    退院患者の受け皿を用意することで急性期病院の効率を上げるため。
    ケア負担を地域社会や家族に負わせることで高齢社会における財政危機を緩和するため。
    当事者の生活的価値の実現にとっての条件に恵まれているため。

Q3 生活モデルに近い意味をもたない言葉を選んで下さい。
    キュアからケアへ
    全人的医療
    リハビリテーション
    社会的排除/社会的包摂
    ナショナルミニマム

Q4 生活モデルと医学モデルの関係について正しいものを選んで下さい。
    生活モデルは生活的価値を実現することに目的を限定しているので、救命・治癒を目指す医学モデルとは別である。
    生活モデルと医学モデルはそれぞれ目的が異なるので、上手に連携させればよい。
    生活モデルでは、生活的価値が救命・治癒の上位の目的となるので、医学モデルは生活的価値実現のための手段の1つに位置づけられる。

Q5 生活モデルの要素であるエコシステム的因果観についての説明として正しいものを選んで下さい。
    生活モデルでは、地球環境への考慮こそが生活的価値を実現する上での基盤だと考える。
    生活モデルでは、当事者の健康の原因は、本人に帰せられるべきではなく、社会的条件に帰せられるべきであると考える。
    生活モデルでは、当事者の健康は、無数の環境的因子や本人の素因が相互に影響し合った結果に規定されると考える。

Q6 生活モデルの由来についての説明として正しいものを選んで下さい。
    生活モデルは、1970年代に提唱された、これまでのケアの常識を覆す新しいケアモデルであり、ケア革命を引き起こすものである。
    生活モデルは、言葉としては1970年代に提唱されたものであるが、その基本的内容は古今東西どの社会においても当たり前に存在するごくありふれたものにすぎない。

Q7 生活モデルが浸透しつつある範囲として正しいものを選んで下さい。
    高齢者ケア全領域
    ヘルスケア全領域
    ヘルスケアを含む福祉領域全体

Q8 生活モデルと社会的排除概念の類縁性についての説明として間違っているものを選んでください。
    生活的価値の実現を目指すための概念であるところ。
    当事者の置かれている状況を特定の要因に単純化して考えるのではなく、多様な要因の複雑な絡み合いとして理解しようとするところ。
    どちらもナショナルミニマムを実現するために有効な手段であるところ。

Q9 地域包括ケアの歴史の認識として正しいものを選んで下さい。
      「地域包括ケア」という言葉は1980年代に提唱されたものなので、その歴史は30年程のものであるとみなしてよい。
      地域包括ケアが厚生労働省の政策となったのは、2010年代なので、その歴史も数年であるとみなしてよい。
      地域において狭い意味での医療に拘らずに患者を支援する活動は、いつ時代にも存在していた普遍的な活動であり、その意味で地域包括ケアは実質的に非歴史的なケアであるといえる。

Q10 在宅ケアの位置付けについて間違っているものを選んで下さい。
       当事者の生活的価値を実現しようとする際に、選択される蓋然性の高い手段が在宅ケアであり、その意味では、在宅ケア化は生活モデルにもとづく支援実践の結果として起きることである。
       在宅ケアが家族の元で行われる場合、時として当事者・家族の生活に厳しい困難がもたらされることもあることを踏まえ、当事者だけでなく、家族に対しても充分な支援がなされる必要がある。
       生活者は在宅でケアを受けることが望ましいので、地域包括ケアにおいては在宅ケアが原則である。

Q11 地域包括ケアにおける病院制度の位置付けについて正しいものを選んで下さい。
       病院の世紀が終焉を迎えた今日、地域包括ケアにおける病院は長期的に解体する運命にある。
       病院の世紀の終焉は、医学の敗北を意味してはおらず、病院の使命は失われていない。

Q12 地域包括ケアにおける住民自治について正しいものを選んで下さい。
       地域包括ケアのシステム設計には各種制度についての専門的知識が必要のため、専門家主導で構築するのがよい。
       地域包括ケアにおける住民自治とは、住民がヘルスケアを支える存在に変わることを意味する。
       地域包括ケアにとって住民は、ケアに必要となる社会資源ではあっても意思決定主体ではない。
       どのような地域包括ケアを選択するかは、当事者ともなり、支援者ともなる地域住民の主体的決定に基づく必要がある。

13 ケアの生活モデル化と地域包括ケア化の関係として正しいものを選んで下さい。
       地域包括ケアは人口高齢化への政策的対応であることから、高齢者以外の当事者へのケアとは基本的に区別される。
       福祉全領域で進行しつつあるケアの生活モデル化の部分的現象として地域包括ケア化があることから、地域包括ケアにおいて適用されるケア原則は、高齢者以外のあらゆる生活問題と共通する。

Q14 地域包括ケアとまちづくりの関係について間違っているものを選んで下さい。
       地域包括ケアは、当事者と支援者の双方が協働することで円滑に作動するものであることから、まちづくりと相通ずるところが大きい。
       地域社会にも地域エゴなど負の側面が存在しており、地域でケアすれば自動的に住民全体が包摂されるという保証はないので、地域包括ケア構築に際しては、そのようなマイノリティへの配慮があわせて必要となる。
       まちづくりは住民自身の活動であるのに対し、地域包括ケアは基礎自治体が実施主体であるから、そもそも両者は似ていない。

Q15 生活的価値(QOL)について正しいものを選んでください。
       当事者の生活的価値は、本人が一番よく分かっていると考えられる。
       当事者の生活的価値は、科学的な方法によって客観的に測定することが可能である。
       当事者の生活的価値は、オプティマムのレベルでは主観的にも客観的にも測定することができない。

Q16 自己決定についての理解として間違っているものを選んで下さい。
       自己決定とは、当事者の意思決定を、本人以外の影響を排除して本人だけの力で決定したものとみなすという一種の仮構である。
       自己決定とは、当事者の意思決定の責任を当事者本人に帰属させるという、結果の責任を社会的に分配する1つの方法である。
       自己決定とは、当事者の尊厳を守る上で普遍的な重要性を有していることから、ケアにおける第1の原則とされるべきものである。

Q17 多職種連携の方法について正しいものを選んで下さい。
       医療系職種と福祉系職種では使う用語に違うので、医療系職種から福祉系職種への情報を流す場合は、福祉系職種が理解可能な内容に限定して行うべきである。
       当事者の生活的価値の実現を支援することが生活モデル的ケアであることから、当事者の生活ニーズを最もよく知る職種を中核として他の職種がそれをサポートするのが基本である。

Q18 多職種連携の方法として正しいものを選んで下さい。
       多職種連携に際しては、機能的な重複を避けるために、責任と権限の範囲を明確にするのが効率的である。
       多職種連携に際しては、当事者へのケア目標を共有した上で、連携チームのそれぞれが自分がすべきことを判断する方が、多様な生活ニーズに即応する上で好ましい。

Q19 2025年問題についての認識として正しいものを選んで下さい。
       2025年までに地域包括ケアシステムを完成させないとケアシステムが崩壊してしまうかもしれないので、とにかく急がなければならない。
       ケアの生活モデル化はそれ自体として、生活モデル的なケアを文化として根付かせる過程であるから、2025年問題は、ケアニーズの増大への準備として重要であるとしても、あくまで通過点に過ぎない。

Q20 中山間地域における地域包括ケアについて間違っているものを選んで下さい。
       地域包括ケアは、地域の財政力に応じたシステム構築が可能なので、中山間地域の方が不利であるとは一概にいえない。
       中山間地域では都市部にくらべて強固な地域連帯がある場合が多いので、この点は地域包括ケアの構築に際して有利な点である。

       地域包括ケアシステムを構築するのには大きなコストがかかるので、それが難しい中山間地域に住む場合は地域包括ケアが構築できないことを覚悟の上で住まなければならない。

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