2010年7月29日木曜日

日本保健医療社会学会研究会での報告のお知らせ

法政大学の三井さよさんのお誘いで、日本保健医療社会学会の関東定例研究会で報告をすることになりました。私にとっては、コメンテーターを稲葉振一郎さんが担当して頂けるということもあって、大変楽しみにしているところです。

社会政策の分野で古典とみなされている本に、T.H.マーシャル『シティズンシップと社会的階級』(1950:1993)があります。社会政策の発達史を、市民的権利の発達(18世紀)→政治的権利の発達(19世紀)→社会的権利の発達(20世紀)と段階論的に把握しようとしたものです。この見方には、ドイツや日本の社会政策史と上手く合致せず、多分にイギリス的な議論であるという批判ももちろんあり得ますが、他方で社会政策とりわけ戦後の生存権保障を軸とした社会保障の意義を理解する上では、今なお示唆的でもあります。

なぜ、ここでT.H.マーシャルを紹介するかといいますと、私の理解するところでは、次代のヘルスケアシステムの最右翼と目される地域包括ケアシステムは、T.H.マーシャル的な生存権保障を中核とする20世紀社会政策とはかなり性格の異なる社会サービスを行うものであるからです。地域包括ケアシステムは果たして21世紀的なシステムといえるでしょうか。このような観点から、地域包括ケアシステムの何たるかを理解するためには、同時に、その社会政策史上、社会思想史上の位置づけを理解することが必要になるということになります。

当日は、稲葉さんや皆さんととこの点を含めていろいろな角度から議論できればと思っています。

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日本保健医療社会学会
第207回関東定例研究会

日時:9月25日(土)13:30~16:30

講師:猪飼周平(一橋大学)

タイトル:地域包括ケアシステムの社会理論へ向けて

概要:
地域包括ケアシステムは、次代のヘルスケアシステムの代名詞となっている。その一方で、なぜ地域包括ケアであるべきなのか、それはどのような特徴を有するシステムなのかといった基礎的な知識の蓄積は進んでいない。本報告では、本年3月に上梓した『病院の世紀の理論』(有斐閣)を土台として、地域包括ケアシステムの社会理論がいかなる内容を有することを求められるのかについて検討・整理してみたい。特に、地域包括ケアシステムが、20世紀福祉国家における生存権保障の範囲を逸脱するケアのあり方を指向しているようにみえる点について、どのように考えるべきか報告者としても悩ましく思っているところでもあるので、参加者の方々と意見交換をさせて頂ければと思う。
コメンテイター:稲葉振一郎(明治学院大学)

司会:三井さよ(法政大学)

場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室C
http://square.umin.ac.jp/medsocio/index.htm

参加費:無料

連絡先:三井さよ(法政大学)(s-mitsui@hosei.ac.jp)

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