2011年2月7日月曜日

施設ケアとは何か

昨年9月のことになりますが、世田谷区立きたざわ苑(特養)に見学にゆく機会がありました。同施設は、2006年に制度化されたもののまだ広まっていない在宅・入所相互利用制度を実践している施設として知られているところです。お忙しい中、施設長の岩上広一さんとマネージャーの斉藤貴也さんのご厚意により、いろいろとお話を伺うことができました。お二人ともきたざわ苑でのケアに誇りをもって取り組んでこられたことがよく伝わってきました。

在宅・入所相互利用制度は、在宅介護の継続を前提に、3ヶ月を上限に特養が高齢者等を入所させるものです。きたざわ苑の説明によれば、自宅での生活上の問題やニーズを把握した上で、3ヶ月間の間に問題を解決ないし緩和して在宅に返すことを目指して、この制度を運用しているとのことです。現在100床のうち7床が在宅・入所相互利用のためのベッドとして確保されており、16名が利用登録をしているとのことです。

さて、このきたざわ苑による取り組みが興味深いのは、それが、特養ホームを終の棲家から在宅生活を支援するための施設へと転換させてゆこうとするものだからです。

特養ホームが、高齢者にとって喜んで入所するところではないことは、高口光子さんが、「小学生のときの『私の夢』という作文に『私は70歳くらいになったら、“要介護3”くらいの認定を受けて、特養に入ることが夢です』と書く人は1人もいない」と述べたとおりです。そのような場が終の棲家になることの問題性については、従来から多くの人びとが指摘してきました。

その意味では、きたざわ苑による取り組みは特養ホームを、望まない場所で余生を送る人生モデルを強化する施設から、そのような人生モデルを抑止する施設へと転換しようとする試みであると理解することができます。

この試みについて学問的な観点から検討すべき問いを、3点抽出しておきましょう。

第1に、在宅・入所相互利用制度がつくられた2006年以降この制度を利用する施設がきたざわ苑を含め数少ないのはなぜかということです。

第2に、意欲的に取り組むきたざわ苑でも、在宅・入所相互利用制度を適用できるのは、定員100のうちの15程度が限界ではないかと考えていることについてです。すなわち、在宅ケアが理想であるとしても、現実はそれを貫徹することを許さないのではないかということです。

第3に、そもそも、きたざわ苑の事例から、在宅と施設の間にある差異としてどのようなものが抽出できるかということです。かりに違いがなければ在宅に高齢者を誘導する必要はなくなります。したがってこの問いは、きたざわ苑の取り組みの正当性の根拠を問う問いです。

来たる地域包括ケアシステムにおいては、急性期医療と在宅ケアについては強力な存在理由が生じる一方で、施設ケアについてはその谷間に落ち込む危険がある、この点については、これまで私があちこちで言って回っていることですが、この問題を解決するためには、施設ケアとは一体なんであるかについてより深く理解することが必要であるといえるでしょう。

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