2015年3月10日火曜日

岡村重夫のすすめ

必要あって、岡村重夫の著書・論文を渉猟しつつありますが、優れた学者だったと改めて思っています。管見の限りでは、日本の社会福祉学が生み出した学者ではピカイチだと思います。

もちろん、私のような認識を持っている人は決して少なくないと見えて、今日でも「岡村理論」をどう継承すべきかについて論ずるタイプの著書などが出版されてもいるところです。ただ、それらの論考の多くは、岡村の議論を咀嚼するので精一杯という印象のものであるのも事実です。

これは重要なことですが、岡村の社会理論を咀嚼するだけでは継承になりません。その限界をきちんと指摘して、どう乗り越えるかを示してこそ継承に値します。現状でそのようなタイプの議論がほとんどないのは、かなり深刻な問題で、このままでは岡村の議論は総括されないまま学説史に埋もれてゆくことになってしまうでしょう。

の点からいえば、社会福祉学の研究者は、M.ウェーバーのいう、学問上の「達成」がつねに「他の仕事によって「打ち破られ」、時代遅れとなることをみずから欲する」の意味をよく考える必要があるといえましょう。

岡村重夫『社会福祉原論』(1983年)は、容易に手に入る(おまけに安い)ことですし、社会福祉学を専攻される方以外にも是非読んで頂きたい本です。第1章に独特の観点からの歴史の検討があり、最近の教科書と違ってとっつきにくいですが、そこを我慢して読み進みますと、第2章に次のような議論が出てきたりします。

「多数の社会関係をもつ個人は、当然多数の社会的役割を果たしてゆかねばならないが、その役割の内容や多数の社会関係の実態について、専門分業化された制度は、自分の専門に属さない他の制度が個人に何を要求し、どんな役割期待をするかについて認識し、理解する能力をまったくもたない。例えば病院は、ただ医療機関としての立場からのみ決められた条件を患者に対して、その実行を期待するのであって、その患者が、職場において何をもとめられているか、家族においてどんな役割を果たさねばならないか等々、個人のもつ複雑多様な社会関係の実態をまったく知らない。」(p.87)

岡村は、ここで社会制度には本質的に、個人の生活を統合するという課題を個人に突きつける性質をもっており、人びとの生活の支援を完遂するためには、社会制度による支援のみならず、この生活の統合が保証する支援が必要となる、という見解を表明しています。

この理解を、たとえば地域包括ケアに適用しますと、地域包括ケアをシステム=社会制度として捉えている限り、生活支援政策としては成功しないということになります。これは、現在の地域包括ケア政策が得てして陥りやすい間違いを指摘しているということになるかもしれません。

では、社会制度以外に何が必要なのか。誤解なく理解するためには、本書を一読されるのがよいでしょう。

→アマゾン
http://goo.gl/CaXP7C





0 件のコメント:

コメントを投稿