2013年4月16日火曜日

医学部学生にとって社会学とは


私は毎年慈恵医大の1年生(医学部医学科、看護学科)向けにゼミナール形式の講義をしています。その名も「社会学」。いわゆる社会学を専門とする学科を卒業した者でない私が社会学を講ずることに毎年多少の逡巡を感じながら講義しています。毎年全1年生向けにガイダンスをする必要があって、今年は原稿を用意したので、掲載しておきます。

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社会学(慈恵医大1年向け)ガイダンス原稿

社会学というのは、その名のとおり社会について考える学問の一つではあるけれども、何か決まったテーマがその学問を特徴づけているのではなく、社会学的に考えるという独特の思考方法に特徴がある。

では社会学的に考えるとはどういうことだろうか。ここでは、日頃当たり前過ぎて気にもしないこと=自明性を疑うことだ、と言っておこう。

たとえば、君たちは小中高とクラスルームの中で教育を受けてきたと思うが、そもそもクラスルームがなぜあるのだろうと考えたことはあるだろうか。外国をみると、固定的なクラスルームを採用しない教育システムをもつ国は多い。ということは、クラスルームは教育に必須のものとはいえないということになる。にもかかわらず、君たちの多くは、教育がクラスルームで行われることに疑問をもたず、むしろ適応してきたのではないだろうか。こういうのが自明性というもので、それがじつは不思議なことだということに気づくことが自明性を疑うということだ。

もちろん、これは一例にすぎない。やってみる気があれば、医療事故の賠償金が子どもの方が高いのはなぜか、という問題を考えてみるといい。常識的には子どもが被害者のほうが賠償金が高いのは当たり前ということになっている。ただ、その理由を君たちは説明できるだろうか。おそらく難しいはずだ。たとえば常識的には生涯所得を基準として、それは算定されることになるが、このような基準にどれほどの客観性があるかを考えてみるといい。

多くの人は医療の世界がどのような世界か、実のところそれほど深く考えずにこの世界に入ってきたのだと思うが、医療は今おそらく100年に一度くらいの大きな変動期に入ってきている。どのくらいそれが大きなことかといえば、医師、病院が主役でなくなる、医療の主な舞台が地域社会全体に移行する。看護の仕事の内容がものすごく多様化する、そういう医療の基本構造が変わるようなことだ。そのような時代において、君たちの医療者としての人生には、もはや敷かれたレールは存在しない。そこで、社会学的に物事を考える力をもつことは、君たちが医療者としての人生を選び取ってゆく上で、おそらく有効な武器になると思う。というのも、上のような社会学的思考は、物事をより根底的に考えようとする思考だからだ。

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